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まちづくりについて考える

「わざわざ行きたくなる街」へ 名駅に負けない街・栄を目指せ

 近年、相次ぐ再開発事業の完了により商業地区として発展しつつある「名駅」地区に対し、長らく名古屋市内最大の商業地として君臨し続けてきた「栄」地区の地盤沈下が懸念されるようになっています。

 2014年には、これまで地域一番店だった栄の松坂屋名古屋店の売上高を、名駅のJR名古屋高島屋が上回りました。その差はその後も広がり続け、2017年4月以降は「タカシマヤゲートタワーモール」の開業効果などもあり、JR名古屋高島屋は地域一番店としての地位を盤石にしつつあります。

 

JR高島屋3年連続トップ 名古屋百貨店17年売上高 :日本経済新聞

名古屋の百貨店、高島屋「1強」に :日本経済新聞

 

 また、栄の老舗百貨店「丸栄」は営業不振や建物の耐震強度の問題から、今年6月末をもって営業を終了します。跡地では周辺の栄町ビルやニューサカエビルを含めた再開発が計画されているものの、再開発後の施設に百貨店として丸栄が再入居することはなく、創業以来400年あまりの歴史に幕をおろすこととなります。

 

名古屋:老舗百貨店「丸栄」、6月末にも閉店 - 毎日新聞

 

 このように、ここ最近は名駅の勢いが目立ち、あまり明るくない話題が続いている栄。今後も名駅では、2027年のリニア中央新幹線開業を見据えた再開発がいくつか控えており、いつかは栄が名駅に淘汰されてしまうのではないか、そんな不安を感じざるを得ません。

 「淘汰される」と言えばやや大袈裟に聞こえるかもしれませんが、実際、今以上に名駅への商業集積が進めば、栄の賑わいが名駅に吸い上げられてしまう可能性は否定できません。

 例えば、タカシマヤゲートタワーモールの開業で若年層をターゲットとしたブランドショップが一斉に名駅に進出したため、今後は同様の層をターゲットとしている栄の「ラシック」や「パルコ」などと客を奪い合い、名駅・栄両方に出店しているショップが名駅に店舗を集約してしまうことも考えられます。

 また、栄は通りに面した路面店が多く点在し、回遊性の高い商業地区が形成されていますが、買い物客が名駅へ流れるようになれば当然人通りも減るため、路面店の数も減ってしまうかもしれません。

 今はまだお互い抜きつ抜かれつの名駅と栄ですが、今後は人口減少によって購買意欲の高い若年層が減少するため、いずれはアクセスの利便性で勝る名駅が優位を確実にするように思います。そうなれば、栄の賑わいは失われていき、栄が空洞化した都心の一部になってしまうかもしれません。

 すでに栄周辺では、都心回帰の流れを受けてタワーマンションの建設が盛んになっていますが、いずれはその流れが栄の中心部に迫ってくることも考えられます。最近では、伏見・名駅に近い納屋橋地区でタワーマンションと生活利便施設が入居する複合施設が開業しましたが、将来的にはそのような施設が栄の中心部に点在することも予想されます。

 そうなれば栄は住む場所となり、商業地区としての魅力が減退してしまうかもしれません。そして何より、名古屋の商業地区が「名駅一強」になってしまうのは、名古屋という都市全体にとって手痛い損失であると思います。

 名駅は、名古屋駅に乗り入れるJR、名鉄近鉄の各線により、岐阜や三重、三河地方の各都市から乗り換えなしで訪れることができます。もともと利便性の高い名駅周辺に相次いで商業施設が開業したことで、これまで地下鉄に乗り換えて栄を訪れていた層の一部が、普段の買い物などを名駅で済ませるようになったと推測されます。また、名駅の商業施設はそのほとんどが駅周辺にコンパクトに集中しており、平日も仕事や学校からの帰りに気軽にショッピングを楽しむことができます。

 このような名駅に対し、栄が今後も魅力ある商業地区として賑わいを維持し、名駅と並び立って名古屋の商業をけん引していくためには、栄が名駅にはない魅力を持ち、目的を持ってわざわざ訪れたくなる街を目指していくことが大切であると考えます。地下鉄に乗り換えてわざわざ行くだけの魅力がなければ、便利な名駅に客足を奪われ続けてしまうでしょう。

 そして、栄がわざわざ行きたくなる街になるためには、街全体が名駅とは異なるコンセプトを持ち、それに沿った統一的なまちづくりを進めていく必要があると思います。

 栄の場合、久屋大通公園オアシス21テレビ塔といった名駅にはない観光施設が点在しており、まずはこういった施設をうまく活用しながら、名駅にはない魅力を高めていくことが重要です。

 すでに久屋大通公園では、錦通を挟んで公園を南北のエリアを区切り、Park-PFI制度を活用した再整備事業が進められています。

 

久屋大通公園、三井不動産代表のグループが再開発 愛知:朝日新聞デジタル

名古屋市:久屋大通公園(北エリア・テレビ塔エリア)整備運営事業提案の選定結果(市政情報)

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久屋大通公園の再整備イメージ(名古屋市公式ホームページより)

久屋大通公園の錦通よりも北側のエリアでは2020年の完成を目指して事業が進められている。錦通よりも南側のエリアについては、北側エリア完成後の事業着手を目指し、2027年の完成を目標に民間事業者の選定などを行っていく。

 

 名駅は、久屋大通公園のような広々とした公園や広場が不足しており、このような違いを栄の特徴として生かすことが大切だと思います。名駅には映画館やライブホールなどはあるものの、大きな公園やイベントが開催可能な広場はほとんどありません。家族で公園を訪れたり、友達とイベントを楽しんだり、そういったことができる空間に磨きをかければ、それが名駅にはない魅力の一つになるはずです。

 久屋大通公園が魅力ある空間として生まれ変われば、久屋大通公園で遊ぶために栄を訪れる人が増えるかもしれませんし、生まれ変わった久屋大通公園に魅力あるイベントを積極的に誘致できれば、そのイベントを楽しむためにわざわざ栄へやってくる人も増えるでしょう。

 同様に、近年は名古屋のシンボルとしてすっかり定着しているオアシス21も、栄の魅力を高める重要な要素であると考えます。

 オアシス21は、市バスなどが乗り入れるバスターミナルと飲食店・物販店等が入居する複合施設として2002年に開業し、ここ最近は外国人観光客を中心に名古屋を代表する人気スポットとしても注目を浴びるようになってきました。しかし、入居しているテナントは郊外のショッピングモールにも入居しているありふれた店が目立ち、普段から名古屋で生活する地元の人たちにとってみれば、わざわざ行きたくなるような施設とは言い難いように思います。

 開業から15年以上経過し、せっかく名古屋のランドマークとして定着しつつあるのですから、今一度テナントの内容や施設の持つコンセプトを大幅に見直し、地元の人たちからもわざわざ行きたいと思われる工夫が必要なのではないでしょうか。

 個人的にはオアシス21に参考としてほしい商業施設がありまして、鉄道の高架下に個性的な店舗が集まる東京・御徒町の「2k540 AKI-OKA ARTISAN」のように、一つ一つの店舗が小さくてもしっかりと施設のコンセプトや魅力を発信できる施設を目指してほしいと思います。オアシス21は西側に愛知芸術文化センターが隣接し、芸術や文化との親和性が高いため、相乗効果を狙える商業施設となれば魅力が増すのではないでしょうか。

 

 栄は、高層ビル内の商業施設が充実している名駅とは異なり、路面店が点在するショッピングストリートが広範囲にわたって形成されています。このような「面的な広がり」は栄が名駅と大きく異なっている点の一つであり、個人的にはこの点こそが栄が持つ最大の魅力であると考えています。

 名駅は、商業施設が名古屋駅近くの高層ビルや地下街に集中し、駅から少し離れると目立った商業施設はほとんどなくなります。名駅の賑わいはいわば「点」であり、集客施設の多くは名古屋駅と直結の高層ビルや地下街に収まっているため、自然と人通りや賑わいも駅近くに集中し、駅周辺に店を構える路面店もわずかとなっています。

 反対に栄は、通りを一本入った街区にも路面店や飲食店が軒を連ね、人通りで賑わう範囲が名駅よりも広くなっています。このような栄の賑わいはいわば「面」であり、買い物をしながらぶらぶら街歩きを楽しむことができるという点は、名駅にはない栄の大きな魅力です。

 ただ、この栄の賑わいの「面的な広がり」についても、現状の改善やさらなる努力を重ねる必要がある感は否めません。

 まず、栄は賑わいの範囲が広い反面、地区全体の回遊性がやや劣っているように感じます。栄は広小路通、大津通、錦通、久屋大通が東西南北に走り、それらの通りによって街区が分断されています。中でも、栄交差点や希望の広場周辺では、移動方向によっては大きな信号を連続して渡らなければならない箇所もあり、地下街を活用するなどしてスムーズな導線を確保する必要があるのではないかと感じています。

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広小路通、大津通、錦通、久屋大通が交わる栄交差点や希望の広場周辺の地図(Googleマップより)

 加えて、広小路通や大津通は沿道に商業施設や路面店などが立ち並び、終日多くの歩行者で行き交う通りでありながら、歩道は狭く、快適な歩行が妨げられている箇所が目立ちます。

 広小路通と大津通については、車道を削減し歩道を拡幅するなど、快適な歩行者空間を確保する必要があると思います。なお、この点については、2013年に名古屋市が策定した「栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~」にも掲げられているため、今後の動きに期待したいところです。 

  また、大津通の栄交差点から矢場町交差点までの区間では、春と秋の休日に歩行者天国が実施されていますが、地区の回遊性を高め、さらなる賑わいを創出するためにも、実施日を増やすことが望ましいでしょう。

 

 このほか、面的な賑わいの広がりをさらに強化するべく、大通りから一本入った通りでも歩行者空間の改善に向けた取り組みが必要です。

 具体的には、広小路通に並行する三蔵通と大津通に並行する呉服町通りについて、屋外広告物の規制、駐輪スペースの再編などにより、快適な歩行者空間と良好な景観を確保することが望ましいと考えます。

 現状、栄の街路はメーターパーキング以外の場所での路上駐車や歩道での乱雑な自転車の駐輪が目立ち、沿道の店舗が掲出する広告物が歩道に大きくはみ出している箇所も見受けられます。

 大通りの歩行者空間がいくら綺麗で快適であっても、その通りから一本入るとすぐに歩きにくい雑多な街路が現れるようでは意味がありません。栄の持つ賑わいの「面的な広がり」をさらに魅力的なものとするためには、大通りから一本入った通りでも快適な歩行者空間と良好な景観が求められると思います。

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三蔵通(緑色)と呉服町通り(黄色)の再整備区間(案)

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街路の再整備後のイメージ(東京・丸の内仲通り:Googleマップストリートビューより)

街路の再整備後は、久屋大通公園や広小路通、大津通との連続性を意識して植栽を充実させる。また、車道と歩道の段差を極力なくしたり、路面をインターロッキング舗装とするなどして、バリアフリーや景観などにも配慮する。メーターパーキングや駐輪スペースも、歩行者や景観の妨げにならない部分に集約して設置する。

 なお、その他の街路でも順次同様の再整備を施し、リニア中央新幹線が開業する2027年頃までには、栄一帯の街区が快適な空間へと整備されることが望ましいと考えます。

 これら一連の再整備によって栄の人通りが増えれば、栄に出店を希望する店舗も増え、街に賑わいをもたらす路面店の進出が加速するかもしれません。名駅にはない新たな店舗を栄に呼び込むことができれば、栄が今以上に「わざわざ行きたくなる街」として認識されるようになるでしょう。

 

 今後の栄では、路面店だけでなく、丸栄跡地の再開発や中日ビルの建て替え等により複合商業施設の存在感も増してくると予想されます。

 直近では、大丸松坂屋百貨店が栄交差点に面する日本生命栄町ビル跡地に新店舗の開業を計画していることが報じられました。栄周辺には老朽化して手狭になったビルが多く点在しており、今後もそのようなビルの建て替えに合わせて複合商業施設の建設が計画される可能性は十分にあるでしょう。

 

大丸松坂屋、名古屋・栄に新店舗 2020年開店目指す:朝日新聞デジタル

 

 栄では、2005年の名古屋三越ラシック店の開業以降、大規模な商業施設の開業がなく、多くのテナントを抱える複合商業施設の需要はまだまだ高いと考えています。一方、名駅ではラシックの開業後も、ミッドランドスクエアや大名古屋ビルヂング、タカシマヤゲートタワーモールといった専門店で構成される複合商業施設が続々と誕生しました。

 この間、栄では老舗百貨店の丸栄の閉店が決まり、松坂屋名古屋店も地域一番店としての座をJR名古屋高島屋に明け渡すこととなりましたが、専門店からなるラシックやパルコは今も健闘しており、パルコは2014年に別館として「名古屋ゼロゲート」を、翌年15年には「パルコ midi」をオープンさせています。

 栄でも新しい複合商業施設が開業すれば、それを目当てに多くの人が栄を訪れ、買い回りによって他の商業施設や栄全体に波及効果が期待できます。

 都内の他の商業地区との競争が過熱している東京・銀座では、松坂屋銀座店が業態を転換した「GINZA SIX」が開業したことで、外国人観光客をはじめとした新しい客層を呼び込むことができたと言われています。

 栄にも新しい複合商業施設が誕生すれば、栄をわざわざ訪れる人が増え、地区全体の活性化が期待できます。特に、現在丸栄跡地で計画されている再開発事業は、丸栄周辺の建物も含めた規模の大きなものとなっており、入居する商業施設も名古屋市内でも有数の規模となることが見込まれます。この再開発が起爆剤となり、栄に魅力的なコンセプトを持つ商業施設が続々と誕生することになれば、栄をより多くの人が訪れるようになるでしょう。

 

 日本が急激な人口減少社会を迎え、今後は名古屋都市圏でも人口が減少していくことが見込まれます。このような社会情勢においても都市の活力を維持し続けるためには、都市は常に新しい価値を生み出し、できるだけたくさんの人を呼び込み続けなければなりません。

 そのためには、栄は名駅と並び立つ名古屋の二大商業地であり続けるのが理想的であり、お互いに魅力を持った性格の違う街として切磋琢磨していくことが大切です。

 しかしながら現状の名駅と栄は、どことなく客の奪い合いに終始し、各々の特徴を考慮した長期的な展望が見えないように感じます。特に栄は、名古屋の玄関口という明確な使命を与えられている名駅とは異なり、保守的な考え方がまだまだ強いようにみえます。それが現在の再開発の遅れにつながっている感は否めませんし、それでは便利さで勝る名駅に客や店を奪われ、いずれは衰退してしまいます。

 ここまで長々と書いたように、栄は久屋大通公園オアシス21テレビ塔といった名古屋のランドマークを抱え、百貨店や路面店の多さでもまだまだ名駅を上回っています。人通りや賑わいも名駅よりも広い範囲にそれが見られ、「面的な広がり」がきちんと形成されている街となっています。

 これらの特徴を前面にしながら、今後の再開発で生まれる新しい商業施設をきっかけにさらなる客や店を呼び込むことができれば、栄は「わざわざ行きたくなる街」としてより多くの人を惹き付け、魅力と賑わいのある名古屋最大の商業地として再び復権することでしょう。

 現在明らかになっている名古屋市内の再開発計画などは、おおむね2027年までに一段落する見込みですが、その頃に栄がどんな街に変貌を遂げているのか、大いに期待しながら見守っていきたいと思います。