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まちづくりについて考える

名古屋市営地下鉄を考えるPart1 名古屋に新しい地下鉄は必要ない? 延伸計画編

 名古屋市内の移動手段として広く定着している名古屋市営地下鉄は、東山線桜通線鶴舞線名城線名港線上飯田線の計6路線、総延長93.3㎞に及ぶ路線網を形成しています。

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 一方で、名古屋市営地下鉄にはまだ開業していない計画路線が多くあり、その総延長は約50㎞に及ぶとされています。

 1992年(平成4年)、当時の運輸省に設置された運輸政策審議会が、2008年(平成20年)度を目標とした名古屋圏における鉄道網の整備基本計画を策定し、運輸大臣に答申しました。以後、「名古屋圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」と題されたこの答申に基づき、名古屋市を中心とした鉄道網の整備事業が進められてきました。

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平成4年1月10日答申第12号による新設鉄道路線図(Wikipediaより引用)

 このうち、名古屋市営地下鉄として整備が計画され、現在も開業の目処が立っていない路線は、上飯田線平安通ー丸田町)、東部線(笹島ー高針橋)、金山線(戸田ー楠町)、桜通線(中村区役所-七宝、徳重ー豊明北)の4路線です。当時はバブル崩壊後の不景気により郊外の住宅開発が進まず、市の財政状況が悪化した時期とも重なります。

 結局、この4路線については2008年までの整備が図られることはなく、最も開業に近いと目されていた地下鉄上飯田線の未開業区間も、2009年の名古屋市交通事業経営健全化検討委員会第7回委員会において建設の凍結が提言されました。現在の市交通局の経営状況や社会情勢を踏まえると、莫大な建設費に見合うだけの需要は到底見込めないとの理由だそうです。

 特に、答申された4路線のうち新設となる上飯田線、東部線、金山線の3路線は、いずれも既存のターミナルである名駅や栄を経由せず、将来的な都市開発の動向に依存した路線計画となっていました。

 例えば、若宮大通の千早交差点付近に設置され、上飯田線、東部線、金山線の3路線が乗り入れる計画の「丸田町駅」は、鶴舞駅から少し離れており、ターミナル的な位置づけとして建設される駅にしては中途半端な立地であるように思われます。これは当時、付近にあったサッポロビール名古屋工場跡地を再開発し、名古屋の新しい副都心として整備していく構想があったためだと言われています。当時は一時、森ビルとトヨタ自動車が共同で複合ビルを数棟建設する計画が進められていたそうですが、結局撤退となり、現在はイオンタウン千種などが開業しています。

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 東部線と上飯田線の起点となる計画だった「笹島駅」も、貨物駅だった笹島駅跡地の再開発計画に沿ったもので、当時は笹島駅跡地に複数の超高層ビルを建設する構想もあったそうです。この地区は若宮大通を西に進むと前述のサッポロビール名古屋工場跡地につながるため、当時の都市計画において新しい都市軸に位置付けられていたのでしょう。おそらく、東部線はこの名古屋都心の新しい都市軸を見据えて計画されたものであったと考えられます。

 その後、2005年の愛・地球博開催を契機に笹島駅跡地の再開発が本格的に動き始めましたが、一連の計画において地下鉄路線の建設は具体化されず、再開発により誕生した「ささしまライブ地区」へのアクセスは西名古屋港線あおなみ線)が担うこととなりました。

 経済情勢の変化により当時の都市開発計画が大幅な変更を余儀なくされる中、上飯田線平安通以南と東部線、金山線は事業化の意義が失われ、最終的に建設しても利用者が見込めないとの判断に至ったのでしょう。そう考えると、これらの路線が今後着工される見込みはほぼないということになります。

 一方で、名古屋市内における新しい地下鉄路線を整備する必要性そのものは失われていないと筆者は考えています。

 特に、名古屋の商業の中心地である栄は郊外から直接乗り入れる路線が少なく、アクセスの利便性で勝る名駅に商業の中心地が移動してしまうことが懸念されています。また、都心回帰などの流れを受けて人口が増加傾向にある名古屋市東部の丘陵地などでは、より高密度な交通網を形成し、都心とのアクセスを向上させる必要があると感じます。

 このため筆者は、1992年の答申により計画された路線網の見直しを行い、名古屋圏の都市開発の現状に合わせた新しい鉄道網の構築に向けた検討を再度進めるべき時期がきたのではないかと考えています。

 その上で、名古屋市営地下鉄においては、特に市外・近郊から栄へのアクセス向上を目的とした路線を整備し、2026年のアジア競技大会開催や2027年のリニア中央新幹線開業に備えた路線網の強化を進めていくべきであると考えます。

具体的な整備計画

 筆者が考える名古屋市営地下鉄の新線計画は3路線です。

 1 上飯田線

 答申における上飯田線上飯田駅から丸田町駅までを結ぶ路線として計画されていました。2003年にはこのうち上飯田駅平安通駅間が開業し、市電の廃止以降いわゆる盲腸線となっていた名鉄小牧線の利便性が大幅に向上しています。

 当ブログで検討する上飯田線は丸田町駅へは接続せず、新栄町駅付近で広小路通を西進し、ささしまライブ地区まで延伸するものとします。なお、JR関西線及びあおなみ線との相互直通運転は行わないものとします。

 上飯田線が栄駅を経由することで名鉄小牧線は栄まで乗り入れることになり、名古屋市北部や春日井市西部、小牧市から栄までの利便性が大幅に向上します。また、笹島交差点付近には笹島駅を設置し、今後の開発に期待がかかる名駅南地区の最寄り駅とします。

2 東部線

 答申における東部線は、笹島駅から名古屋市東部の高針橋駅(または岩崎駅)までを結ぶ路線として計画されていました。東山線と並行することで同線の混雑緩和を図り、笹島貨物駅跡地とサッポロビール名古屋工場跡地で計画された再開発地区を結ぶ新しい都市軸として期待されたものでした。また、笹島駅ではJR関西線及び西名古屋港線と、丸田町駅では上飯田線を経由して名鉄小牧線相互直通運転を行うものとされました。

 当ブログで検討する東部線では、吹上駅から西側では若宮大通を西進せず、国道153号線を通り広小路通へ抜け出た後、新栄町駅から上飯田線のささしまライブ方面へ直通運転を行うものとします。加えて、ささしまライブ駅から先の区間では、あおなみ線相互直通運転を行います。

 東部線があおなみ線相互直通運転を行うことで、あおなみ線から栄方面への利便性が向上します。また、東部線は東山線のバイパス機能を持つ路線としても位置づけられていることから、広小路通を経由することでその機能をより強化することができるものと考えます。

3 金山線

 答申における金山線は近鉄戸田駅から丸田町駅、地下鉄名城線黒川駅を経由し、楠町駅に至る路線として計画されていました。戸田駅では近鉄名古屋線と直通運転を行うことが検討され、愛知県西部や三重県北部方面から名古屋都心へのアクセス向上が期待されたものでした。

 ただし、当ブログで検討する金山線は答申から大幅にルートを見直し、根本的に異なる機能を有する路線とします。

 当ブログにおける金山線は、名東区の引山駅から緑区の西神の倉駅までを結ぶ約26㎞の路線とし、引山駅ー栄駅間は基幹バス新出来町線の地下鉄への置き換えを兼ねるものとします。また、栄駅ー西神の倉駅間のルートは、名古屋市南東部の地下鉄駅から離れた地域の交通利便性向上を念頭に置いたものです。

 都心への通勤利用だけでなく、沿線に集中する高校や大学への通学利用を多く見込むほか、2026年に開催されるアジア競技大会でメイン会場となる瑞穂陸上競技場へのアクセス路線としての機能を併せ持ちます。

 なお、答申における金山線は近鉄戸田駅から分岐して金山駅を経由した後、鶴舞駅、丸田町駅を通り、国道41号線を北上して黒川駅、楠町へ至る路線となっていますが、答申どおりのルートでは到底需要が見込めません。また、近鉄名古屋線が金山線を介して栄駅まで乗り入れたとしても、運賃や所要時間は名古屋駅を経由する場合とあまり変わらないことが予想され、経営面においても戸田駅から先の旅客が分散してしまう近鉄側から見ればメリットの少ない計画であると感じます。

 

 以上が、筆者が考える名古屋圏における新しい地下鉄の整備計画案です。

 ただ、実際のところ、名古屋市が今後新しい地下鉄を建設する可能性はほとんどないでしょう。市交通局の2016年(平成28年)度決算によると、地下鉄事業は依然として2,482億円もの累積欠損金を抱えており、積もり積もった赤字を解消するには至っていません。

www.kotsu.city.nagoya.jp

 市交通局の喫緊の課題は経営状況の安定化であり、人口減少時代と言われる昨今の社会情勢も考慮すれば、多額の財政負担をしてまで地下鉄の延伸が行われるような状況ではないのが実情です。

 地下鉄の路線延伸でより広い範囲から多くの人を栄をはじめとした都心部へ呼び込むことができれば、交流人口が増え都心部の活性化につながり、都市全体の魅力も向上するでしょう。しかし、そうはいってもというのが実際のところ。

 名古屋に新しい地下鉄路線が開業する日は、もうやってこないのかもしれません。